研究概要 |
本研究は,自己の専門領域を基底領域とした類推が,専門性の成長過程においてどのように変化していくのかという問題を検討することを目的としている。2年間の専門教育課程で「人間の目の構造」に関する科学的知識の学習とその知識を利用した現場実習を体験する眼科医療技師専門学校生(約30名;眼科群)と,大学の教員養成課程の2年に属し,3年までの2年間で教職に必要な知識の学習と教育実習を体験する大学生(約30名;教育群)の2つの被験者群を設定し,4項形式の類推文生成課題(aとbの関係はcとdのようだ.なぜならeだから.)を実施した。なおその際には,被験者の十分な仮説空間の探索プロセスを保証するために,制限時間などの実験的な制約を可能な限り軽減した。類推課題は,収束-拡散の次元を操作し,利用できる目標領域の知識の選択範囲が異なるタイプの問題を設定した。専門性の成長過程の各段階における類推的思考を反映するデータを得ることを目的として実験を行った。その結果,専門化過程の初期段階では,拡散的な課題(類推文の作成に利用できる目標領域となる知識の選択が被験者の自由に任されている課題),収束的課題(目標領域がある程度規定されている課題)とも,類推文の生成量の群間の差は見られず,類推と専門性の間に明確な関連性は見いだされなかった。しかし,段階が進行し,両群間の専門的知識の差が拡大していくにつれて,生成量の差が広がる傾向が見出された。その内実は,拡散的課題では専門的領域で減少,非専門的領域で不変,収束的課題では専門的領域で増加,非専門的領域で不変という変化である。この結果は,課題に適用可能な知識ベースの専門化レベルと課題構造の交互作用によって,類推における知識検索過程が影響されることが分かった。
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