研究概要 |
本研究では,(1)小学校の算数文章の問題タイプデータベースを作成する,(2)それぞれの年齢段階で獲得しているスキーマ知識の構造化の程度を明らかにする,(3)スキーマ知識の構造化の程度が転移を規定するのかどうかを明らかにするという3つの目的で行われた。 【研究1】大阪府内で多く使用されている小学校1年生から6年生用の算数教科書(大阪書籍・東京書籍・学校図書・啓林館)を分析し,スキーマごとに分類し,その典型例とサンプル問題を含んだスキーマ知識データベースを作成した。 【研究2】小学校4年生を対象に,長方形の面積問題の解決におけるスキーマ知識,解決方略と解決生成との関連について検討した。その結果,4年生でも長方形の公式である「たて×よこ」スキーマ知識が獲得されており,これらの問題は正確に解くことが可能であることが分かった。しかしながら,複合問題(長方形を複数組み合わせた複合図形の面積を解く問題)では,スキーマ知識を獲得している子どもであっても十分に解くことができないことが明らかにされた。 【研究3】研究2の結果から,「たて×よこ」スキーマ知識を獲得していると思われる小学校5年生を対象に,複合問題と十字路問題の解決において,情報選択能力と解決生成績との関連性を検討した。その結果,複合問題の解決においては,過剰情報の選択能力の高さが解決成績を予測することが明らかになった。しかしながら,十文字問題の解決成績と情報選択能力との関連性は見られなかった。 【討論】本研究から得られた知見をまとめると,(1)長方形問題のスキーマ知識は,長方形の単元が終わった4年生では十分に獲得されている,(2)長方形問題の解決においては,スキーマ知識に基づいた公式の利用だけではなくて,情報選択能力が必要である。(3)スキーマ知識が十分に獲得されていても複合問題や十字路問題の解決には結びつかず,転移は起こらない。
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