研究概要 |
本研究は、阪神・淡路大震災以後、急速に社会的認知を獲得しつつある「ボランティア」について、それがいかなる意味を帯びた営みとして社会的に構成され、定着しつつあるのかについて、社会的構成主義、社会的表象理論の立場から検討したものである。 具体的には、第1に、近年、社会心理学の領域において注目を集めている、社会的構成主義、および、社会的表象理論の精緻化を試みた。その結果、森羅万象の素朴な実在性を徹底して懐疑する「強い構成主義」の立場に立つ必要性を明らかにした(杉万・矢守・渥美,1997;Wagner&Yamori,1999)。第2に、近年のボランティア現象の実相を把握するための実証的な研究を実施した。具体的には、阪神・淡路大震災時に活動した多くのボランティアの活動記録を収集、かつ、その一部については当事者に対してインタビュー調査を実施した(八ッ塚・矢守,1997)。その結果、(1)日本における「ボランティア現象」は、巨大災害という形で日常性を解体され、その再構成を迫られた一般民衆、および、専門家が従事した現実構成作業の一環であったこと、(2)その際、「ボランティア」は、一方では、---例えば、被災した人々の物質的損害以外の領域を「心のケア」という言葉で標的にするように---震災前には社会的に表象化(言語化)されていなかった領域を実体化する営みと連動しているが、他方では、---例えば、一部の工学者が、「ボランティア」というコンテキストに仮託する形で、広く民衆と一体となった災害復旧計画事業に従事したように---現象の全体性に回帰し、従来の表象化(言語化)を還元する営みとも親近性をもっていること、すなわち、世界の社会的構成という観点に立ったとき、「ボランティア現象」とは相反する2つの運動の融合物であったこと---これらのことを明らかにした(矢守,1999)。
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