研究概要 |
本研究では、1934年、1964年、1994年の三時点の読売新聞(関西版)から、それぞれ、110,117,116合計343の身の上相談記事を系統抽出した。 これをテキストファイルとしてコンピュータに入力した。 入力された身の上相談記事は、awkスクリプトを用いてコンピュータ・コーディングした。その結果、具体的には以下のようなことが明らかになった。 第一に、「個々人自らが判断する生活効率の基準」を超えた社会規範、倫理に関わる言明を行っているかどうかをまず調べた。具体的には「罪」「恥」という概念のいずれかを用いているかどうかを調べた。その結果、近年になるにしたがって、このような概念を用いて自己のおかれている状況を定義するような相談記事はますます少なくなってきていることが分かった。 第二に、親子、学校、近隣関係といった人間関係へ言及しているかどうかを調べた。その結果、親子、結婚、離婚といった第一次的な人間関係に言及する相談が最近になるにしたがって減少していることが分かった。 第三に、相談の中にあらわれる主題の増減を調べた。貧困、病気、セクシャリティといった主題への言及は最近になるにしたがって減少していることが分かった。それに対して、「孤独」「精神的問題」「困った性格」といった個人の内面に注目するような主題が増加していることが分かった。 全体としてみると、自分のおかれている状況をとらえる際に、他者や社会制度・倫理との関係を顧慮せず、自分の内面を見つめるような個人主義的人間観が強まる傾向が明らかになった。このような発見は人々が自分の人生を意味付け、記述する際に用いる修辞的な特徴を分析することによって明らかになったものである。
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