前年度に引き続き、質的資料の収集・分析を継続し、これと並行して公平性をめぐる規範意識ーーこれをルールに関わる意識と仮に呼ぶことにするーーをメタレベルでとらえる軸を以下のように整理した。価値としての正義の社会学的特質は、人々の行為を制御する末端ルールの正当性が制度を基礎づける理念(=正義)に依拠するところにある。だから、理念と末端ルールとの齟齬の指摘による革新が可能となる。しかし、このプロセスが発動するためには「理念に照らして社会を評価すること」が可能でなければならない。そして、理念と現実の社会状態は別側だという認識が成立したとしても、具体的な変革の可能性は理念が行為を制御する程度に依存している。公平性に関わる意識を社会変革との可能性と関わりで定式化する(海野・斎藤、1990:斎藤、1994)のであれば、「公平な理念」へのコミットメントの有無を左右する意識の軸が抽出されなければならない。これは、ルールの適用対象に関する軸とルール適用のあり方に関する軸に分けられる。前者はさらに、ルールを普遍的な他者に対して適用するのか、個別具体的な関係性に即して適用するのかという普遍主義性と、自己の行動を理念により拘束するintegrityとに分けられる。後者については、判断の中立性と手続重視志向があげられよう。この中で、異質な他者との接触による変化と関連するのは中立性と普遍主義性であると理論的に予想される。予備的な分析によって、これを指示する方向の結果が得られており、ある程度の経験的な妥当性が既に確認されている。
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