本研究は、「教育責任」に関する考察と同時に、教育学の新しい分野である「臨床教育学」に関する考察を課題としたものであった。 「教育責任」に関する考察は、教育という課題を担う大人の人間存在としての在り方に注目するものである。人間存在を理解するうえで、「責任」が重要な概念であることはこれまでの哲学および思想研究の示すとおりである。本研究は、そのような哲学的知見を、子どもとの教育的関係の中で「教育責任」を果たさねばならない大人という対象において考察し直すことであった。これは、教育という営みの意味を、教育の直接的な享受者としての子どもに向けてではなく、大人に向けて問うことである。 本研究の基礎的な作業として次の二つを行った。1.「教育責任」に関するこれまでの研究の整理と検討。2.「臨床教育学」「現象学的教育学」「精神科学的教育学」に関する研究の整理と検討(「臨床教育学」は、学説史的に見て、「現象学的教育学」「精神科学的教育学」と密接に結びついたものである)。 この作業から、次のような課題を新たに立て、その考察を行った。「教育責任」という観点から、これまでの教育思想を読み直すという課題である。教育学および教育思想史の中で「教育責任」というテーマは決して新しいものではない。「教育責任」という言葉が使用されていなくとも、「教育責任」という問題は、教育の思想家にとって大きな意味をもっていたと考えるべきである。なお、このような研究の方向は、近代教育学の再検討という大きな課題へと通じるものであろう。
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