今年度は学校改革論議の焦点である「学校の自律」論の多様なバリエーションについて考察を進め、以下のような枠組みでドイツの「学校の自律」論を把握できることを明らかにした。 1. 政治論的な文脈からの「学校の自律」論 これは社会全体の変化に対応するものとして学校経営の改革を展望しようとするものである。(1)社会全体の分権化・自己決定の徹底を望む視点から、学校組織についても自律的な管理・経営権の付与を主張するもの。近年では「緑の党」の教育政策に特徴的であるといわれる。(2)価値意識の多様化に伴って、それに対応するべく学校組織の多様化を求める立場からのもの。これはむしろ私立学校の自由の現代的拡張であり、素朴な教育の市場化論とつながる。(3)教育目的としての民主主義的価値を学校経営のレベルにまで拡張しようとするもの。 2. 教育論的な文脈からの「学校の自律」論 これは組織体としての学校の教育力の向上を確保するための条件として学校経営の改革を展望しようとするものである。(1)学校機能の独自性・特殊性・個別性が自律的な学校経営を必要とするとみなす立場からのもの。(2)単なる知識の伝達の場ではなく、生活と経験の場として教育をとらえる立場からのもの。この観点からすると、オートノミーなしには学校現場の日常的な「混乱」に対処できない。(3)自律的な学校経営は効率的な学校経営の前提条件となるとみなす立場からのもの。 ブレーメンなど、すでに一定の自律性を学校に認める改革に着手している州もある。一般論としてではなく、具体的な制度論理としてのドイツにおける自律論議とその現実的な効果を丁寧に考察することが次の課題となる。
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