平成10年度は、前年度からの継続において、1990年代のドイツの教育政策の動向に関する調査研究を行った。昨年度からの資料収集や文献の読み込みによって、とりわけ、90年代の後半から、「学校の自立性・自己責任」がキーワードになって、ドイツ各州において学校法の改正を含む、教育改革が急速に進行している。同様に組織の自立性と柔軟性を高める改革が大学の領域でも進行している。さらに、こうした改革動向は、教育政策の領域に固有なものというよりも、新しい公共サービス領域ので行政改革(NPM、New Public Management)の中で進行している、ということも、今のところおぼろげながらも見えてきた。また、このような潮流は、EU統合の中で、社会民主主義政権が叢生している中で、80年代を特徴づけた「新保守主義」的な改革の否定ではなく、継承にウェイトを置きつつ、ヨーロッパ全体を覆う形で進んでいる。 ようやく、上述のような政策動向を把握しつつあるが、その「政策化」過程の具体的な分析検討は、予想以上に資料集の面で困難であったが、若干進んだ。これについては、個別具体的な事例の検証ということになるが、ヘッセン州において、1998年の学校の自立性を強化と、親の参加を促進することを目的とした「学校法の改正」が行われた。このことによって、「固定化された開校時間」が各学校に義務づけられ、教員はこれまでの「義務的な授業時間」に加えて、在校時間の義務規定が導入された。こうした改革は、州政権与党とその支持母体との調整がやはり必要であったが、そうした葛藤・摩擦について一定程度明らかになる中で、その本質が見えてきた。この政策過程に関しては、「揺らぎの中の福祉国家の教育政策-90年代ドイツ・ヘッセン州の改革-」(『現代世界の教育改革(仮称)』理想社1994年4月刊行予定)において、まとめている。 このほか、ニーダーザクセン州、バーデン・ビュルテンベルク州の改革、1998年の層選挙などを事例にして、政策過程の分析が進んでいる。
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