研究課題/領域番号 |
09710308
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研究種目 |
奨励研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
国文学
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
森本 隆子 静岡大学, 人文学部, 助教授 (50220083)
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研究期間 (年度) |
1997 – 1998
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研究課題ステータス |
完了 (1998年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
1998年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
1997年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
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キーワード | 夏目漱石 / Picturesque / 絵画 / 近代 / 独身者 / ラファエロ前派 / イギリス世紀末 / 古典 / ピクチャレスク / 恋愛 / 女 / ニーチェ / ラスキン / 風景 |
研究概要 |
「明治文学における〈絵画〉とモダニティ ー 藤村と漱石を中心に」の題目の下に、今年度は漱石初期文学におけるモダニティを中心に考察した。『それから』で飽和点に達する漱石前期文学は、イギリス世紀末芸術の影響下、近代の極まりにおいて近代の乗り越えを目指して格闘した、きわめてモダンで西欧的な色彩の濃いものである。最終目標は、在来の国文研究においては、問題意識の希薄になりがちな漱石初期におけるモダニティと西欧性を焦点化し、その内実を炙り出すことにあるが、今期は、とりわけその傾向の強い『草枕』『虞美人草』についてテクスト分析を試みる一方、まさに<近代国民国家>の植民地、満州をめぐって展開された『満韓ところどころ』より、〈近代・西欧〉と<古典・中国>の狭間で分裂する漱石像を読み解いた。 たとえば、東洋趣味・古典回帰の書と評され続けてきた『草枕』は、確かに、<戦争・汽車・恋愛・探偵>などに象徴される<近代>世界への異和に出発した作品ながら、しかし、<近代>世界からの逸脱が志向するものは、必ずしも古典的東洋世界ではない。「余」は、それら南画的漢詩的世界が還らぬ<過去>にすぎないことを捉えており、いうまでもなく「平衡を失っ」て「往昔の姿」に戻れぬ「那美さん」とは、そのような「余」の志向に応ずるかのように出現したアニマ的存在である。安穏とした那古井の<春>は、むしろそれだけでは現実世界の裏返しとしての逃避にすぎず、那美さんは、そのような<春>への安住に亀裂を突き付ける「只の女」ならぬ ー「古雅」な長良乙女伝説への回帰を拒否する「狂印」として、「余」と共に<近代>と闘争している。 『満韓ところどころ』については、「漱石の中の中国」と題して、西欧近代の国民国家が産出した植民地への異和が、同時に<漢文/英文>から成り立つ19世紀的知の枠組の喪失であったことを論じた。
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