今年度は、これまで一貫して追求してきた中国の西洋音楽受容史および近代音楽文化史というテーマを、単著「楽人の都・上海 近代中国における西洋音楽の受容」 (研文出版、1998年9月)として発表した。そして北京の中央音楽学院を訪問し、音楽史・音楽学の専門家らと、本書の成果について意見交換を行った。解放前上海の音楽文化が、東京やハルビンといった同時代のアジアの諸都市の状況と緊密な結びつきを持ち、しかも政治・経済などの社会的背景を濃密に反映しているという点に関して、中国側の認識と一致した。また中国の研究者が、1920〜40年代の東京の音楽文化や、当時日本の植民地だった台湾の音楽家について強い関心を持ち、日本の研究者との協力を切望していることが確認された。これは今後の東アジア音楽史研究の中心となる重要な課題であると同時に、従来の中国学・音楽学の枠組みを超える新たな研究の方向として、継続して検討する必要がある。 また今年度より着手したテーマとして、メディアとしての音楽の役割に注目し、20年代以降のいわゆる革命歌曲について研究を進めた。文盲率の低かった当時の中国で歌曲が主要な宣伝の手段であったことなどを実証し、論文「歴史は歌う-中国革命における歌曲の役割」にまとめた。この論文は、言語の様々な形態や機能を新たな視点で追求した「シリーズ言語態4 記憶と記録」 (高村忠明ほかと共著、東京大学出版会、1999年刊行予定)に収録される。
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