研究概要 |
筆者は近年,圧縮性Navier-Stokes方程式に対する解の一様有界性,及び漸近挙動について興味をもって研究を行い様々な成果を得てきたが,本研究期間においてはそれらの結果及び手法を,数理物理学における様々な方程式に対して応用を試みた。とりわけ,1次元有界領域内において,温度のやりとりを伴う反応的圧縮性粘性気体の運動を記述する方程式系に対する考察を行った。この問題に対しては既に,J.Bebernes,A.Bressan等により時間大域解の存在は証明されているが,その際に用いられた評価式は時間に依存しており,時間無限大での解の挙動は不明であった。今回,同様の問題設定において,評価の見直し,詳細な解析を行い解の漸近挙動に関して次の結果を得た。 方程式系に現れる化学反応強度関数及び初期データに対する適当な仮定の下で, 1. 定常問題の解,即ち定常解は一意で,それは定数状態(1,0,A,0)のみである。 2. 解はH^1-ノルムで時間に関して一様有界である。即ち,時間に依存しない定数Cが存在し,||(υ,u,θ,z)||_1【less than or equal】Cが成り立つ。さらに比体積及び絶対温度は上と下からの一様評価:C^<-1>【less than or equal】υ(x,t),θ(x,t)【less than or equal】 3. 時間大域解は定数定常解にH^1-ノルムで指数的に漸近する。即ち||(υ-1,u,θ-A,z)||_1【less than or equal】,Cexp(-δt)が成立する。 上述の結果において,絶対温度に対する上と下からの一様評価が得られたことは,この問題に関して特筆すべき事であり,そのためH^1-ノルムでの漸近挙動の計算を可能にしている。 一方,非有界領域の場合にも興味をもって考察を行っているが,特に1次元の場合,漸近の速度が遅く部分的な結論しか得られておらず,今後の研究課題として残されている。
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