研究概要 |
本年度は,時間依存型方程式により記述されるKarhunen過程の定式化に関し方程式から逐次的に直接解を構成することと、fractional Brown運動のHurstパラメータのwaveletによる統計解析を行った。 前者については,これは時間依存型発展方程式で記述されるというtime-evolution lawをもつ非定常Karhunen過程をL^2-theoryの枠組みで構成したものである。この意義は、弱定常過程やGetoorのnormal過程が時間に依存しない初期値問題の適当なL^2空間での解として半群により与えられるという従来の理論体系と、これまでL^2-theoryの中で提案されている非定常過程のモデルが「導かれた」ものではなく、「与えられた」ものに過ぎず関連する理論がアプリオリ考察でしかない、という背景に対し、田辺・増田らによる偏微分方程式論における時間依存型発展方程式のcounterpartをとるという自然な拡張の形で、非定常過程のモデルとして、真に客観的なtime-evolution lawを持つクラスを「導いた」ことにある。第1段階として解(解作用素)の構成等に関わる基本的な問題を考察したが、第2段階で過程から導かれる確立変数のL^2-空間における解作用素のここでのL^2-有界性を調べ、これにより過程と解作用素(発展作用素)の完全に対応することを示し、第3段階以降で他の幾つかのクラスとの関連を調べたり、弱定常過程のFourier解析にあたる解析方法を特異積分論やHardy空間論や擬微分作用素論等の実解析・関数解析的なテクニックを用いて確立する、といった今後の課題を発現することができた。ここには解析学と統計学の融合としてたいへん興味ある議論が期待できると考えている。 後者については、データネットワーク等において近年重要性の高まっているfractional Brown運動のfractal次元を表すHurstパラメータの推定にwavelet解析を応用したものである。サンプル分散の両対数プロットの傾きからそのパラメータを推定するが、その際、リアルタイムに推定する実現のシステムにおいては、wavelet関数の各スケールでのサポート幅が指数的に異なるため、推定にavailableなwavelet係数の個数も指数的に異なり、オンライン推定においては収束の速さの違いが問題となることに着目し、各スケールでの収束の速さを、大偏差原理(LDP)を用いて評価することができた。LDPのメリットとして、独立でないwavelet係数列に対して確率あるいは統計的モデリングを経由しないということを利用し、サンプル分散の真の分散への収束の速さはL^1(Ω.P)の意味で、信号の長さTに対し、O(T^<-1/2>),as T→∞であることが得られた。今後は、純粋に自己相似ではない過程に対してどのようにパラメータの推定や他の解析を行っていくか議論してゆきたい。
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