研究概要 |
確率格子気体と呼ばれるモデルに代表される保存系においては,数学的には「予想」にとどまっている興味深い物理的描像が少なくない.例えば、保存則という一種の制約条件,いわばlong rangeの相互作用の影響で平衡状態への指数的速さの接近は起こらず,物理的な考察によれば,時間相関の減少は多項式のオーダーにしかならない.本研究は,確率格子気体(川崎ダイナミクス)をモデルとして取り上げて,保存系の持つこのような側面に関する(数学的に完全には未解決の)問題に対しての寄与を試みる物であった。 具体的な問題としては、「平均Gibbs測度に関する相関関数は、このモデルの拡散的な性質を反映して、拡散方程式の基本解で近似される」ことを示す漸近公式を確率すること、そしてさらにこれを応用して,物理における様々な「べき法則的長時間挙動の問題」に対しての接近を試みることが挙げられるが、前者については平成9年度の研究で下からの評価が得られていた。しかしながら当時の結果では、その評価で自然に現れる物理量であるbulk diffusion matrix(塊状拡散行列)に対しての正定値性が示されてはいなかったという意味でも十分な結果ではなかった。そこで平成10年度は平衡Gibbs測度に対して十分な混合性を課す事により、その正定値性を見通しよく示すための方法も得られた。 この部分も含めた結果は、1998年8月にベルリンで開催された国際数学者会議におけるショートコミュニケーションの場で発表することができ、大変有意義であった。なお、このための外国旅費は当科学研究費補助金によるものである。また、この内容をまとめた論文をElectric Communications in Probabilityに投稿中で、レフェリーからは前向きなコメントを頂いており、現在改訂版に対しての最終判断を持っている状態である。今後はこの結果を基に、「長時間揺動の問題」についての議論を深める事が望まれる。
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