研究概要 |
本研究では、有効理論を用いた励起バリオンの現象の解析を通して、ハドロン物理の力学機構を明らかにすることを目指した。昨年度の研究をさらに発展させることができた. 1 質量スペクトル 軽い香りのSU(3)バリオンの質量スペクトルのなかに非常に単純な規則性が潜んでいることを明らかにし、それがバリオンの変形という性質によってよく説明できることを示した。現在観測されている励起バリオンの大部分の質量が,唯一のパラメータで再現できたことは注目すべき点である。さらに現在未確認の励起状態の存在を予言することができた。 2 電磁遷移 励起バリオンの構造をより詳細に見るために電磁遷林について調べた。多重極展開による一般公式を導き、さまざまな遷移過程を調べた。結果として、現存するデータの精度が不十分なこと、また理論の不定性などから確定的な結論を得るには至らなかった。一方でRoper励起の解析によって従来の非相対論的な手法の限界を示し、今後より慎重に研究を進めることの重要性を明らかにした。 3 バリオンのカイラル対称性 カイラル対の観点から正・負パリティーバリオンの性質を見直し、2種類のカイラル表現の可能性を明らかにした。拡張された線形シグマ模型を構成し,異なったカイラル表現の現象論的な帰結について調べた。さらに実験的に可能な方法をいくつか提案し、将来の発展の足がかりとした。 以上の研究全体を通して、理論的な理解とともに実験の可能性を重視した。そのために、国内外の研究集会において成果を発表するとともに,理論・実験研究者と専門知識の交換を行った。
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