金、銀、銅といった金属ナノ結晶を分散させたガラスは高い光学非線形性と高速応答性を兼ね備えている。このような特性を支配しているのはナノ結晶中に光励起によって生成するホットエレクトロンである。本年度はバンド間遷移と表面プラズモン共鳴に基づくホットエレクトロンの生成と緩和過程の解明を目指した。 1. ガラスの屈折率を増加させると表面プラズモンバンドは長波長シフトし、表面ブシズモン吸収バンドとバンド間吸収帯の重なりを変えることができる。バンド間遷移とプラズモンの光学非線形性への寄与を調べるためにガラスの屈折率を変えた3種の銅ナノ結晶試料を準備し、フェムト秒レーザーを使って過渡吸収スペクトルを測定した。測定においてはポンプ光のエネルギーを表面プラズモンバンドからバンド間吸収に至る広い範囲で変化させた。その結果、ホットエレクトロンの生成効率は表面プラズモン励起の方がバンド間励起よりも約3倍大きいことがわかった。 2. 金属ナノ結晶分散ガラスの非線形光学応答は時定数が数psの高速成分と数百psの低速成分の二成分からなる。高速成分は光励起によって金属ナノ結晶中に生成したホットエレクトロンが電子格子相互作用によりエネルギーを失い冷却する過程に対応している。また低速成分はナノ結晶からガラスへの熱拡散に対応している。 母体がガラスの金ナノ結晶分散試料と母体がチタニア(二酸化チタン)の金ナノ結晶試料を作製した。ガラスと比較するとチタニアは熱伝導率が高い。そのため熱拡散効率が上がり上記の低速成分の寄与が小さくなることが期待できる。これらのフェムト秒ポンプ・プローブ分光測定を行い、非線形吸収の時間挙動を比較した。どちらの試料についてもほぼ同じ時定数の緩和過程が観測され、低速成分の寄与にも差は現れなかった。現在、母体材料への熱拡散を考慮した二温度モデルによりホットエレクトロンの冷却過程を解析中である。
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