1.プログラム開発 日立製S3800/380スーパーコンピューターシステム上で我々が既に開発したLCAO-LDAプログラムに分子動力学法を組込む。現在のプログラムは実空間において分子およびクラスターの電子状態と正確な力を計算することができ、遷移金属の電子状態および安定状態計算に敵したプログラムとなっている。しかし実験におけるクラスター形成過程をシミュレートするには分子動力学法を付加する必要がある。また、磁気異方性を計算するためにスピン・軌道相互作用も取り込んだプログラムを開発する。 2.プログラムチューニング 第一原理分子動力学法は膨大な計算時間を必要とする。大規模計算を可能とするため、日立製超並列計算機SR2201向けにプログラムの並列化およびチューニングを行う。 3.解析処理環境の整備 スーパーコンピュータから出力される計算結果は膨大な量になるため、その物理的な意味を的確に把握するには、処理結果の解析が必要になってくる。その有効な手段として我々は可視化処理を考えている。スーパーコンピューターと新規に購入するパーソナルコンピューターとの分散処理を考慮し、可視化処理を中心とした解析処理環境を整備する。 4.遷移金属クラスターの安定性、電子構造、磁気特性および磁気異方性についての研究 まず最初に我々はCu基板上に吸着したFeクラスターについて研究を行う。両者は非個容体であり、Cu基板上でのFe薄膜、多層膜やクラスターについて多くの実験結果が得られている。一方、我々はこれまで既に孤立したFeクラスターやCu中に埋め込まれたFeクラスターの理論計算を行っている。両者の結果を比較することは興味深く、クラスターと基板の相互作用を研究する際に重要な出発点となる。我々は多くの原子(現在約500原子を扱うことができる)を用いてこのクラスターと基板の系をモデル化し、基底状態での電子構造から系の電子分布を考察する。また、分子動力学法の導入により全エネルギーを指標として様々な状態での構造の最適化が可能となる。この手法を用いて、我々は基板上に吸着した遷移金属クラスターの幾何学的および電子的安定性や磁気異方性についての研究を行う。
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