研究概要 |
昨年度までに実験に使用する温度可変型液体ヘリウム冷却式極低温移動管質量分析計の開発,ならびに極低温ヘリウム気体圧力測定方法の再検討はほぼ終了した.今年度は質量分析計としての装置の特性を調べることを念頭において更に予備実験を進めた.具体的には,液体ヘリウムによって4.3Kあるいは2.0Kに冷却した極低温ヘリウム気体の中に二価のクリプトン・イオンKr^<2+>を入射し,このときに生成したイオンの質量スペクトルの測定を行った. これまでに一価のイオンを用いた場合には,イオンを凝集核として10個程度のヘリウム原子が結合したヘリウムクラスターイオンの生成が観測されている.電荷を持つイオンと中性ヘリウム原子の間に働く引力的相互作用である分極力はイオンの価数の二乗に比例するので,イオンを二価にすると引力ポテンシャルが一価の場合の4倍になる筈であり,より多くのヘリウム原子が結合した(サイズの大きな)クラスターの生成が期待できる.測定に先立って,効率を上げるために質量スペクトル測定をパーソナルコンピュータによって制御できるようにシステムを改良し,測定用プログラムの開発を行った.この改良によって,以前の測定方法より5倍以上の測定時間の短縮および信頼性の向上が可能となった. 実験結果から二価クラスターイオンでは,一価の場合と同じヘリウム数n=12に特異的な安定性が見られるとともに,一価では観測されなかったn=40程度の非常に大きなクラスターが生成することが判明した.この大きなクラスターに関しては特異的な安定性が顕著ではないが,イオンを中心に置いた正二十面体の頂点と面の中心にヘリウム原子が並んだ場合に相当するn=32が魔法数である徴候が観測されている. 残念ながら,本研究の最終的な目標である原子トンネル反応の直接的な観測には至らなかったが,極低温において以前より遥かに大きなヘリウムクラスターの生成に成功した.今後はクラスターイオンの生成機構を解明し,そこにトンネル効果が隠れている可能性についても検討していく予定である.
|