研究概要 |
本研究では,阿蘇火山における地下浅部熱放出過程を,熱エネルギー収支の観点から理解することを念頭に複合的観測を実施した.以下にその経過と得られた知見をまとめる. まず,活動火口近傍の地磁気連続観測によって火口直下数百m程度の温度状態の監視を行った.これによれば1997年以来継続していた温度低下の傾向が1998年3月を境に温度上昇へと転じている.以下に述べるように自然電位や噴気活動に大きな変動が観測されていないことから,この時期に深部から何らかのエネルギー供給が行われた可能性がある. 地磁気観測と並行して,火口の東南側に電極を配置して自然電位の連続観測を行った.観測当初は雷害により安定したデータが取得できなかったため,電源を太陽電池方式にするなどの処置を施した.この連続観測では研究期間中有意な変動は見られなかった.しかしながら,中央火口丘規模(5km×5km程度)のスケールで自然電位の空間分布を調査したところ,山頂部付近で明瞭な高電位を示すことが明らかになった.従って,阿蘇火山が比較的大規模な熱水対流系を擁していることは確かである. 本研究では,阿蘇火山の噴気にプリュームライズ法を適用して放出熱エネルギー量を見積もる予定であったが,研究期間中の噴気活動は一貫して低調で,この方法の適用に不向きな条件であった.そのため,デジタルビデオカメラを用いた実験の代替地として九重火山を選定した.ビデオ画像をパソコンに取り込んで噴気を追跡し,プリュームライズ法を適用した.カメラを固定して撮影を行えば自動処理による放出工ネルギーのモニタリングも可能であることがわかった.また,この方法によるエネルギー量算出の妥当性を検証するために,別府温泉の噴気を利用してビトー管による直接測定との比較測定を行った.この結果,プリュームライズ法はファクター2程度の誤差で放出エネルギーを見積っていることが明らかとなった.
|