研究概要 |
冬季、大陸からの寒気吹き出しにともない、日本海上では何本もの筋状の雲が発生する。この筋状降雪雲は日本海沿岸地域に局地的豪雪をもたらすものとして、自然災害科学においても重要な対象の一つであるため、近年はドップラーレーダー観測の展開などにより、その内部の流れの場についても詳細なデータが得られるようになった。 本研究課題では、1992年1〜2月に北海道石狩平野を中心に展開された重点領域研究の特別観測で得られた風速・反射強度データセットから、石狩湾の地形に沿って形成された降雪雲を選んでリトリーバル法による解析を行ない、降雪雲内部の気温、気圧場を推定した。 降雪雲の陸側下層では周囲よりも-0.2℃程度低温で0.2hPa程度高圧の領域が示された。また、この高圧部の形成には低温な空気の存在だけでなく、地形により曲げられた気流と季節風の収束による力学的な効果も寄与していることが解析により示された。さらに,降雪雲上部にも周囲より0.1hPa程度高圧の部分が存在していることが示された. これらの熱力学的構造から、以下の様な降雪雲の維持のメカニズムが推測される。降雪雲下層では、季節風への地形の作用により高圧部が形成され、上向きの気圧傾度力によって筋状の上昇流域が形成される。凝結高度まで持ち上げられた気塊中では潜熱が解放されるため周囲より高温になり、空気はさらに上昇し、降雪粒子が形成される。気塊が安定層に達するとその上昇は押えられ,気圧傾度により気流の発散が起こる. さらに、リトリーバルされた物理量をもとに潜熱放出量の計算を行った.成長期は下層から雲頂付近まで潜熱放出量は正の値であったが、成熟〜減衰期には雲頂付近で比較的大きな負の値を示した。これから,雲頂付近での乾燥した空気のエントレインメントによる降雪粒子の蒸発が降雪雲のライフサイクルにおいて重要な役割を果たすことが示唆された。
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