極域の圧密氷に含まれる気泡は、雪-氷遷移層(firn-ice transition layer)と呼ばれる深度領域(南極沿岸部で30〜50m深、内陸で90〜110m深)で主として形成されている。この遷移層での気泡形成過程を調べることは、それ以深の氷に含まれる気泡などに関するデータを解釈する上で重要である。 解析に使用した試料は、南極みずほ高原で採取されたH231、みずほ、G15、ACコアの雪-氷遷移層(密度790〜840kg/m^3)である。コアから厚さ0.9〜1.5mm程度の薄片を各々5〜10枚作成し、15mm×12mmの領域を顕微鏡で観察し、写真撮影した。この写真をスキャナーによりコンピューターに取り込み、気泡の数密度、平均断面積、周長などを計算した。なお、1枚の薄片で、40〜90個の気泡が撮影できるので、各地点で200〜900個の気泡を解析したことになる。 各地点ごとの単位体積あたりの平均気泡数密度(/mm^3)は、形成される地点の平均気温(10m雪温)と負の相関がある(温度が高いと観察される気泡の数が少なくなる)ことがわかった。また、気泡の平均断面積(mm^2)は、平均気温が高くなるにつれて大きくなることもわかった。 以上の薄片を使った気泡の2次元解析により、雪-氷遷移層で形成される気泡の数密度と断面積には、地域特性があることがわかった。つまり、「10m雪温が高い地域では、大きな気泡が少数形成され、10m雪温が低い地域では、小さな気泡が多数形成される」ということである。これは、気泡形成過程における結晶粒径を反映していると思われる。結晶粒径は、氷床内部の氷温・温度勾配・降雪後の時間などで決まると考えられるので、雪-氷遷移層における気泡数密度や面積は、気温や表面質量収支などのシグナルを反映していると考えられる。これまでの研究で、深層コアのエアハイドレイトの数密度や平均体積の分布が深層コアのδ^<18>O分布と相関していることが報告されているが、これは雪-氷遷移層において形成された気泡の特徴が氷床深部でも保存されている可能性を示す。
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