大気中の二酸化炭素(CO_2)の炭素同位体比(d^3C)は、大気と表層海洋、陸上生物圏の間でCO_2が交換される際に異なった同位体分別効果を受けるため、大気中のCO_2濃度の変動原因に関する情報を持つ。本研究では、地球表層におけるCO_2の循環を定量化するために、西太平洋域におけるCO_2濃度、d^3Cの観測と二次元大気輸送モデルを用いたCO_2の放出源・吸収源分布の推定を行った。 まず、d^3Cは北半球で明瞭な季節変化を示し、4〜5月に極小値、8月に極大値をとる。d^3Cの季節変化成分をCO_2濃度と比較することにより、北半球におけるCO_2濃度の季節変化は大気ー陸上生物圏間のCO_2交換量の変動に起因することが明らかになった。d^3Cの経年変化に注目すると、化石燃料起源の同位体的に軽いCO_2が大気に加えられているために、d^3Cはすべての緯度帯で約-0.03茗/年の減少率を示した。ENSOイベントが発生したあと、ある時間遅れを伴って大気中のCO_2濃度が急増することが知られているが、このCO_2濃度の急増に同期してd^3Cは急激に減少していることが明らかになった。 本研究で得られだCO_2濃度とd^3Cの観測値からCO_2濃度の放出源・吸収源の緯度分布と変動を定量化するために、緯度ー高度方向の二次元大気輸送モデルを開発した。この二次元モデルにCO_2濃度とd^3Cの観測値を入力し、インバースモードで解いて各緯度帯からのCO_2放出・吸収量を求め、さらにCO_2放出・吸収における表層海洋と陸上生物圏の寄与を分離した。その結果、表層海洋は赤道域でCO_2を大気に放出し、それ以外の緯度帯でCO_2を吸収していること、陸上生物圏は北半球中高緯度で大量のCO_2を吸収していることが明らかになった。また、ENSOが発生したときには、南北両半球低緯度域の陸上生物圏がCO_2の強い放出源になっていることが推定された。
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