研究概要 |
1. 現在大気大循環モデルに使われているarakawa-Schubertパラメタリゼーションを用いた場合,熱帯の積雲活動の短周期変動や,それにともなう重力波的循環の振幅が非現実的に小さくなることを,大気大循環モデルならびにそれを簡単化した2次元モデルによって示した.これは、積雲活動が起こる条件が緩すぎることにより,重力波との相互作用が弱すぎることが原因であると考えられる.そこで、下層〜中層の相対湿度がある一定値を越えた場合にのみ積雲が起こるように変更を加えた.すると,短周期変動の振幅が増大したのみならず,平均的な降水量の分布にも改善が見られた.すなわち,熱帯収束帯,フィリピン東方,梅雨前線付近の降水の過小評価が大きく軽減された. 2. 実際の熱帯大気の2日周期変動においては,太陽放射の日変化にともなう1日周期の変動の存在も重要であると考えられる.そこで,積雲活動を陽に分解したメソスケール気象モデルを用い,比較的単純な設定のもとで実験を行った.その結果,境界層上端付近の雲による放射加熱の日変化が境界層の構造の日変動,特に境界層直上の水蒸気量の日変化をもたらし,それが積雲活動の日変化をもたらしていることが明らかになった. 3. 大気大循環モデルを用いた水のトレーサ追跡実験により,全球スケールでの水蒸気の輸送の時間スケール・空間スケールに対する知見が得られた.以上の研究成果により,熱帯などの低緯度域の積雲・降水活動の時間・空間構造の形成においては境界層付近の下層の水蒸気のふるまいが重要であり,その増大による積雲活動のオンセットを適切に考慮することが,変動の適切な再現において重要であることが明らかとなった.このプロセスにおいては,さまざまなスケールの重力波が,積雲と相互作用を起こしつつ重要な役割を担うことが示された.
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