研究概要 |
本研究では,河川の堆積プロセスと海水準変動との関係を検討するために,長崎県北松浦郡小佐々町〜田平町の海岸線において,前期〜前中期中新世(1,800万〜1,500万年前)の地層である野島層群の中下部層(大屋層と深月層)の地質調査を行い,大屋層と深月層の堆積環境の解釈と磁気層序による年代決定を行った.[1]大屋-深月層の40地点で泥岩の有機炭素・硫黄含有量を測定し,その炭素硫黄比を検討したところ,大屋層・深月層はそのすべてにおいて淡水成堆積物であることが確認された.[2]深月層の12地点から岩石試料を採取し磁気測定を行ったところ,深月層中部の1地点で正磁極,深月層上部の8地点で逆磁極が得られた.昨年度のデータと合わせると,大屋層〜深月層下部が正磁極帯,深月層上部が逆磁極帯である.深月層基底の凝灰岩層の放射年代(18.5±2.3百万年前)を参考にすると(誤差を考慮),大屋-深月層は(1)クロンC6An1n-C6r,(2)クロンC6n-C5Er,(3)クロンC5En-C5Dr,(4)クロンC5Dn-C5Crのいづれかに対比されるが,いづれに当たるかについてはより精度の高い放射年代データが必要である.また,大屋-深月層は大きく見積もっても135万年間より短い期間で堆積したことがわかった.[3]昨年度の研究から,大屋層と深月層は主に砂岩泥岩互層と厚い砂岩層からなり,砂岩泥岩互層は湖底堆積物,厚い砂岩層は湖に流れ込む河川〜河口三角州の堆積物と解釈された.大屋-深月層(層厚約2,000m)の垂直方向(=時系列方向)において,(1)湖底堆積物と(2)河川〜河口三角州の堆積物の出現頻度に著しい変化は認められなかった.これは,大屋-深月層について,その堆積環境の変遷と海水準変動(数百万年のオーダーの変動)との関係を検討するには,その堆積期間(<135万年)があまりにも短かすぎるためかもしれない.
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