研究概要 |
本研究の第一歩として、現世の海洋底から得られた化学合成生物群集(御前崎沖竜洋海底谷よりシンカイにて採集)を有機地球化学的に分析した結果、3,7-dimethylalkaneとakylcycropenetaneが多量に検出され、これらはシロウリ貝類と共生するバクテリアを特徴付けるバイオマーカーである可能性が示された。ただし、GC/IR/MS分析による同位体測定から炭素同位対比は、それぞれ-24‰前後でバクテリアの生成物をしては重すぎる値が示された。また、長鎖のisoprenoidが多種含まれるが、深度と伴に急激に減少し、海面下10cm程度でほとんどがsqualeneに変化する。これによってisoprenoidは分子化石としては全てsqualeneの形で保存されている。n-alkaneはほとんど認められず、hopanoidはdiplopteneが卓越する。 さらに、古生物学的に非常によく研究されている横浜市港南台のシロウリ貝群集について同様の分析を行った。ここでは、炭酸塩によってセメントされた化石試料からの分子化石の抽出法を新たに開発した。その結果、現世の試料と同様に3,7-dimethylalkaneが検出された。これによって3,7-dimethylalkaneは、化学合成生物群集を特徴付ける化学化石であることが示された。これによって、化石群集の保存状態が悪く、伝統的な古生物学手法が用いることが出来ない場合でも、分子化石を用いて化学合成生物群集の認定を容易に行うことができるようになった。 北海道手塩中川町オソウシナイ沢産出白亜系二枚貝化石Inoceramus Orientalについて同様の分析を行った結果、同様の化合物が検出された。Inoceramusは、大型の個体が密集して産出し、その生態にはなぞの部分が多い。かりにInoceramusが化学合成生物細菌と共生していたと考えるとうまく説明ができるが、詳細な議論には今後さらなる分析が必要である。
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