研究概要 |
本年度は,実験に共する巻貝類を選択するため,淡水生の複数種について予備的な飼育実験を行い,世代時間および初期発生における殻体成長の観察を行った.また軟体動物の殻体形成に大きく関与していると考えられる因子として,二枚貝類(ホタテガイ:Patinopectenyessoensis)の殻に含まれる主要な水溶性酸性タンパク質(MSP-1)の構造解析を行った.まず生化学的な方法により殻内の有機物を粗調整し,SDS-PAGEによって精製分離したタンパク質のアミノ末端のアミノ酸配列をペプチドシーケンサーにより決定し,これをもとに当該タンパク質をコードする相補的DNAを増幅・クローン化し,塩基配列を決定することによりMSP-1の全アミノ酸一次配列を決定した.その結果,このタンパク質が主にアスパラギン酸,グリシン,セリンの組み合わせから成る3種類の領域が規則的に繰り返した特徴的な構造を持つことがわかった.さらに,MSP-1の機能上重要と思われるアスパラギン酸が多く含まれる酸性領域において,アスパラギン酸が従来の予測とは異なる並び方をしていることを発見した.また,ノザンブロットハイブリダイゼーションにより,当該タンパク質をコードするmRNAのサイズ,およびそれらが外套膜で発現していることを確認した.現在,MSP-1が軟体動物でどれだけ広く保存されているかについて,PCR法を用いて検討を進めている.
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