本科学研究費補助金による本年度の研究実績は以下の3つにまとめられる。 1. 特殊な形状のフィラメントによるイオン化の検討 昨年度に引き続きラジウムの効率の良いイオン化に必要とされる特殊な形状のフィラメントを成型しイオン化効率の検討を行った。通常のフィラメントに比べ僅かではあるがイオン化効率の向上(10%程度)が認められた。 2. 海水中のラジウムの分離精製法の検討 海水試料からのラジウムの効率の良い分離精製法の検討を行った。ラジウムは海水にバリウム及び硫酸を添加して硫酸バリウムを形成させることで分離した。精製にはクラウンエーテルによる抽出クロマトグラフィーを用いた。その結果、ラジウムの回収率は高いがバリウムとの相互分離は必ずしも十分ではないことが確認された。現在、相互分離の効率を上げる手法の開発に取り組んでいる。 3. 海水中のラジウムの定量 ラジウムと地球化学的挙動が類似している元素として同族(アルカリ土類元素)のバリウムが挙げられる。そこで、ラジウム(質量数226と228)とバリウムの定量を、白鳳丸のKH-96-5次航海(主にインド洋)で採水した試料について行った。ラジウムに関しては放射能測定、バリウムに関してはICP質量分析計を定量法に用いた。 各々の地点のラジウム-226とバリウムの濃度の深さ方向のプロファイルは、従来の結果通りいずれも深さ方向に増加するいわゆる栄養塩型のものとなった。そして、ラジウム-226とバリウムの鉛直分布は極めて類似性していることが確認された。 表面水のラジウム-228とバリウムの分布に関しては、ともにアンダマン海とベンガル湾で高い値を示すことがわかった。表面水のラジウム-228は大陸地殻から供給される物質の量の指標とみなされている。従って、上記両海域の表面水に関しては、バリウムもラジウム-228同様その大半が大陸地殻起源であることを示している。
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