研究概要 |
本研究では、メソ多孔体の与える細孔を利用して分子性液体の構造緩和挙動に対する粒径効果を追跡し、複雑な液体構造とその緩和機構を解明することを目的として研究を進めた。その結果、o-ターフェニルを2.5,5,7.5および20nmの異なる平均細孔径を有する多孔質ガラスに導入した場合、ガラス転移温度が細孔径の減少に伴って低下する傾向が見られた。このことは、分子性液体における構造緩和時間の温度低下に伴う非アレニウス的な急激な増大が、液体中での短距離秩序構造を有するクラスターの生成,発達に起因する可能性を強く示唆している。すなわち、メソ多孔体の細孔中で液体粒径が制限されることにより、温度の低下に伴う分子相関領域の拡大が阻害され、これによってガラス転移温度が低下したものと考えられる。 また、本研究のさらなる展開のために、現有の交流誘電率測定装置に拡張を施し、10mHz〜1GHzの周波数領域,10〜400Kの温度範囲での測定を可能とした。さらに、細孔中での分子の静的,動的構造について有用な知見を与えることが期待される固体NMR測定において、通常のMAS法では高分解能化が不可能な核四極子相互作用を有する核種に対する多量子励起二次元法の開発を行った。 さらに研究過程において、核生成主導結晶化を見出しているo-ターフェニルについて、その結晶化速度の理論計算による再現と結晶粒径の見積りを試み、結晶核生成速度が液体のα一構造緩和過程ではなくβ-緩和過程によって支配されていること、および、結晶粒径は50nm程度であり液体中のクラスターサイズがこれよりも小さいことを明らかにした。また、トリフェニルエチレンの過冷却液体が緩和時間に強い非アレニウス性を示すフラジル液体であることを明らかにし、ガラス転移温度の低温域に核生成主導結晶化が存在することを見出した。
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