研究概要 |
これまでに抽出・単離されているフラーレンケージは、必ず互いに隣り合わない五員環と六員環でできていた(孤立五員環則:IPR)。金属を内包してもこの性質は変わらず、金属内包フラーレンのケージはIPRを満たすと考えられていた。ところが、Ca@C_<72>では隣接五員環や七員環をもつ構造が従来のIPRを満たすものより極めて安定であることを、昨年度の研究で初めて見いだした。そこで今年度は、(1)ほかにもIPRを満たさない新しいケージをもつ金属内包フラーレンがあるのか、(2)金属内包フラーレンのケージは制御できるのか、を理論計算により明らかにした。 本研究では、実際に実験で構造決定はされていないものの単離に成功しているC_<74>の内包フラーレンを取り上げた。五員環と六員環でできるC_<74>異性体の数は14246個もある。この中から、昨年度に提案した構造予測のルールを用いて安定なケージ構造をサーチした。その結果、Ca@C_<74>はIPRを満足するが、Sc_2@C_<74>は新しいケージ構造であることを明らかにした。Sc_2@C_<74>では、実験でも新しいケージ構造が示唆されている。Sc_2@C_<74>のScをLaに変えると新しいケージ構造の安定化はさらに大きくなる。以上の結果から、C_<74>は内包する金属の数や種類が変わると金属から受け取る電子の数が変化し、ケージ構造を制御できることがわかった。また、これらの結合の性質を電子密度を用いて明らかにした。 金属内包フラーレンで代表的なC_<82>では金属の数と種類でケージ構造を如何に制御できるかを明らかにすることは、生成機構を考える上でも極めて興味深い。そこで、その準備段階として今年度はSc,Y,LaおよびLaに続く14種類の希土類金属(Ln)を1個内包したC_<82>の電子状態を明らかにした。これまでの実験では、LnはLaと同様にC_<82>に3個の価電子を渡していると結論されてきた。しかし本研究により、Lnから3個の価電子がケージに移動するもののケージからLnへ合計1個の逆供与が起こるため、実際のLnの酸化数は+2であることをあきらかにした。また、この逆供与による金属の酸化数の変化は、現在フラーレンに使われている実験手段では見えないことを提言した。
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