研究概要 |
C_<60>の溶媒中の回転相関時間は、溶媒の粘性ではなく溶媒の密度に非常に良い相関があることを見い出した。[30%-^<13>C]C_<60>の^<13>C-NMRのT_1測定を、10種類の溶媒(CS_2,o-dichlorobenzene,1,2,4- trichlorobenzene,toluene,p-xylene,chlorobenzene,benzene-d_6,1,1,2,2-tetrachloroethane,cis-Decalin,trans-Decalin,1,1,2,2-tetrabromoethane)中、室温にて二つの異なる磁場強度で行い、その差から、緩和のうちケミカルシフト異方性による緩和の寄与(T_<t(CSA)>)のみを取り出し、回転相関時間τ_cを算出した。観測されたC_<60>の回転相関時間は、溶媒中ではかなり速く、自由回転をしているとして見積もられる速度のたった3-7倍程度であり、一定温度(室温)において、溶媒の様々な物性値のうち、密度のみによい相関があることがわかった。この事実は、「相関時間τ_cが溶媒の粘性係数ηに比例する」Debye-Stokes-Einsteinのモデルでは説明できず、「溶質分子と溶媒分子の弾性衝突によって溶質分子の自由回転が妨げられる」Hynes-Kapral-Weinbergのモデル(Enskog-collision theoryからのSlip-Boundarly condition)に近いが、後者のモデルでも、異なる温度で観測された相関時間を同時に説明することはできなかった。温度依存性を検討したところ、(特に溶媒の密度が高くC_<60>回転相関時間の遅い溶媒において)密度の高いもの程温度依存も大きい傾向が観測された。液体の粘性には、密度の寄与と分子間相互作用の寄与があるはずであるが、C_<60>のようなきれいな球体であるために溶媒の構造を壊さずに回転運動できる分子の回転相関時間にはその内の溶媒の密度の寄与だけが利いていると考えている。
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