研究概要 |
アンモニアに溶媒和されたナトリウムの二量体、三量体負イオンの光電子分光実験が進んだので、非経験的分子軌道計算によるそれらの光電子スペクトルの解析に重点を置いた。[Na_2(NH_3)_n]^-の異性体を探索した結果、NH_3が片方のNaに選択的にN側から結合する構造が最安定であった。計算によりこれらのクラスターの光電子バンドは、垂直電子脱離エネルギー(VDE)の低い方から裸のNa_2の1^1Σ_g+、1^3Σ_u+、1^3II_u、1^1Σ_u+、1^3Σ_g+に由来する状態への遷移に帰属され、VDEの絶対値も実験を良く再現した。Na(^23S)+Na(^23S)に解離する1^1Σ_g+、1^3Σ_u+由来の状態へのVDEはあまりnに依存しないものの、Na(^23S)+Na(^23P)に解離する励起状態由来の状態へのVDEはnとともに一様に低下する。これはNH_3により溶媒和されるとNaの価電子は溶媒側に大きく広がり、溶媒和されたNaの周囲の電子状態が1中心のRydberg型になるためで、[Na_2(NH_3)_n]^-の片方のNaが選択的に溶媒和されることにその原因がある。さらに[Na_3(NH_3)_n]^-については、裸のNa_3^-の場合に1.20,1.90eVの電子束縛エネルギーの位置に強い光電子バンドが観測され、溶媒和によりこれらのバンドはn=4で1.5eV付近に収束する。またn=2から、0.6eV付近に新たなバンドが観測された。我々の解析では裸のNa_3^-の基底状態は直線の1重項状態でNH_3は真中のNaにN側から選択的に溶媒和する。1.20,1.90eVの光電子バンドは直線での中性1^2Σ_u+、1^2Σ_g+状態への遷移に由来するバンドと、n=2以降現れるバンドは三角形の三重項状態への遷移と帰属した。直線構造では溶媒和が進むと一方のNa-Na距離が伸び、[Na_2(NH_3)_n・・Na]^-型になっていく。このためNa_2(1^1Σ_g^+)+Na(^23S)に解離するこれらの状態は徐々にエネルギー間隔が狭まり光電子バンドが1本に収束する原因となっている。実験では溶媒和による金属の溶解と解離の微視的過程を初めて観測したものと考えられ、理論解析も行なえた。
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