研究概要 |
前年度、2つのフェナントレン環がある距離の範囲内でほぼ平行に位置しているシクロファン型の化合物において、2つの芳香環がほぼ完全に重なっている場合(syn体)だけではなく、一部のみが重なっている場合(anti体)でもエキシマーを形成することが明らかとなった。この場合のanti体は、フェナントレン環の3つのべンゼン環のうちの中央以外の2つが重なっているものであった。 本年度はこの結果をふまえて、anti体の中でも芳香環の重なりの程度が異なるものについて蛍光挙動(エキシマー形成挙動)を検討した。実際には、2つのフェナントレン環が1,8-ナフチレンにより架橋された1,8-ジフェナントリルナフタレン類1を取り上げた。この場合、フェナントレン環の架橋位置を変えることにより、anti体での芳香環の重なりの程度の制御が可能となる。 1-、2-、3-、及び9-ブロモフェナントレンから調製した有機金属試薬と1,8-ジヨードナフタレンとのクロスカップリング反応により1a-dを合成した。この中で、1aとdについてはsyn体とanti体の室温での分離に成功した。 これらの化合物の蛍光スペクトルを室温で測定したところ、anti体においても、syn体と比較して若干短波長にシフトしているものの、ブロードなエキシマー蛍光が観測された。また、anti-1aとanti-1dを比較すると芳香環の重なりの少ない前者の方が短波長シフトしていた。 以上より、芳香環の重なり方とエキシマー蛍光の極大波長の位置には密接な関係があることが明らかとなった。
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