研究概要 |
本年度は磁気的性質の向上を目指して、集積構造内の金属イオンの組み合わせをFe^<III>-Ni^<II>からM^<III>-Mn^<II>及びM^<III>-Co^<II>(M^<III>=Fe,Mh,Cr,Co)に代えて、同様にシアン橋架け金属集積型錯体の合成を検討した。新たに以下の3系統の集積体が得られたので、構造と磁性を評価した。 1. 3次元MnCr集積型錯体[Mn(en)]_3[Cr(CN)_6]_2・4H_2OMnCl_2・4H_2Oとethyenediamineの混合溶液にK_4[Cr(CN)_6]を加えて静置すると、[Mn(en)]_3[Cr(CN)_6]_2・4H_2Oが淡緑色結晶として得られた。X線結晶構造解析結果は、[Cr(CN)_6]_4の6つのシアノ基は全て[Mn(en)]^<2+>の4つの空きサイトに配位して、不完全キュバン構造を基本骨格とする3次元ネットワークを形成している事を示した。これはPrussian Blue類縁体の構造に相当しており、重要な構造的知見である。磁性面では、Mn(II)とCr(III)間の反強磁性的相互作用を基としたフェリ磁性的挙動を確認した。詳細な磁気測定より、この化合物の磁気相転移温度を69Kと決定した。この温度は、構造決定された分子磁性体の中で最高値である。 2. 2次元MnM集積型錯体[Mn(enH)(H_2O)][M(CN)_6]・H_2O(M^<III>=co,Mn)1と同様の合成法から、[Mn(enH)(H_2O)][M(CN)_6]・H_2O(M^<III>=Co,Mn)が得られた。この化合物では、enがプロトン化して単座の陽イオン性配位子となっていた。X線結晶構造解析より、[M(CN)_6]^<4->の面内の4つのシアノ基が[Mn(enH)(H_2O)]^<2+>の面内の4つの空きサイトに配位して、2次元網目構造を形成していることを確認した。またM^<III>=Mnの化合物では、Mn^<II>-Mn^<III>間の反強磁性的相互作用に基づくフェリ磁性(T_C=22K)の発現が確認された。 3. 1次元Co^<II>Co^<III>積型錯体[Co(cn)_2]_3[Co(CN)_6]_3・4H_2OCoCl_2・6H_2Oとenの混合溶液にK_4[Co(CN)_6]を加えて静置すると、上記錯体が橙色結晶として得られた。構造は、以前に報告した[Ni(en)_2]_3[Co(CN)_6]_3・2H_2Oと同じ1次元縄梯子型ネットワークを形成しており、磁気的には反磁性のCo^<III>を含むため、常磁性であった。Co^<II>Fe^<III>とCo^<II>Cr^<III>集積体は結晶として単離できなかった。
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