研究概要 |
ジシアノ金酸塩の紫外光照射下における蛍光発光は、単結晶構造に基づく分子軌道計算、高圧下での結晶構造解析および蛍光測定の結果などから、d^<10>金属であるAu(I)の間の結合性相互作用により固体中に生じた新たな電子構造に起因するとされている。本研究では、Au(I)-Au(I)間相互作用とその蛍光特性との関係を更に探究すべく、構造既知の蛍光物質であるK〔Au(CN)_2〕,Cs〔Au(CN)_2〕などとは異なる新規化合物を〔Au(CN)_2〕^-と遷移金属Cd(II)の組み合わせにより開拓することを試みた。 本年度X線回折法により同定された6種の新規化合物は6配位のCd(II)に対して複素環アミン配位子:imidazole(imH),pyridine(py),3-methylpyridine(3-Mepy),3,4-dimethylpyridine(3,4-dmpy),3,5-dimethylpyridine(3,5-dmpy),3-aminopyridine(3-ampy)を2個または4個を含み、〔CdL_2{Au(CN)_2}_2〕(L=imH,py,3-Mepy,3,4-dmpy,3-ampy)および〔Cd(3,5-dmpy)_4{Au(CN)_2}_2〕の組成をとる。L=imH,py,3-Mepy,3,4-dmpyでは、〔Au(CN)_2〕^-によりCd中心が架橋連結され全体として無限2次元網目層となる。網目の両面に突き出たimH,pyは層間の空間を埋めて等間隔の積層構造を維持するが、他方3-Mepy,3,4-dmpyは層の網目内に侵入し二重層を形成するため交互に狭い層間と広い層間をもつ積層構造となる。これらの微結晶試料に紫外光(320nm)を照射したとき、L=imHでは470nmに,L=pyでは390nmにそれぞれ蛍光が観測されたが、それ以外の場合には、顕著な蛍光は観測されなかった。現段階ではこの事実を結晶構造中のAu(I)の配置と直接関連付けることはできないが、L=py,imHではAu(I)が隣接層のAu(I)と4.0〜4.5Åの等間隔で1次元連鎖状に配列し、L=3-Mepy,3,4-dmpyでは2個のAu(I)が3Å強の層間距離を隔てて存在することから、結晶構造内のAu(I)の配置の相違による影響が示唆される。なお、L=3,5-dmpy,3-ampyは上記積層構造はとらず、顕著な蛍光も観測されていない。
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