研究概要 |
ヘテロ高分子ゲルの相転移: 高分子ゲルは環境の変化に伴い、その体積を不連続にかつ可逆的に変化させることが知られている(高分子ゲルの体積相転移).これは微視的には、環境の変化に伴う分子間力の変化により高分子網目が可逆的かつ不連続なfolding及びunfoldingを起こすものと理解されている,これまで高分子ゲルは膨潤・収縮の2つの相をとることは知られていたが、その高分子ゲルを構成するモノマーがある条件を満たすヘテロな組成をもつと、膨潤・収縮相以外に「多重相」をとりうることを見いだした。この多重相はへテロ高分子であるタンパク質の構造安定相に関係があるものとして考えられ、タンパク質の構造記憶の問題に本質的な寄与をしたものと評価されている。 状態を記憶する高分子ゲル: 多重相を示すゲルは、環境変化の履歴により、とりうる状態,(相)を決める「記憶効果」を示すことを見いだした。この「状態記憶効果」が、ゲル内の分子間相互作用、特に水素結合が大きく関与していることを多くの実験結果から得た。さらに、水素結合の効果(具体的にはゲル内に形成される水素結合の数)を考慮した平均場理論を構築し、多くの実験結果を定性的に説明できるに至っている。 ヘテロ高分子ゲルの相転移に伴う微視的構造の変化: 中性子散乱により,多重相を示すゲルの微視的構造は,同一の膨潤度を示していても環境変化に履歴により異なることが明らかになり,上述の「記憶効果」が微視的にも証明された。 天然高分子のゾル-ゲル転移への金属イオンの影響: 天然高分子,特に多糖類のゾル-ゲル転移は共存する金属イオンの影響を強く受けることが知られている.金属イオンの多核核磁気共鳴分光により各種金属イオンの運動性について検した結果,ナトリウムイオンはゾル状態・ゲル状態を問わず水溶液中と同一の運動性を有している反面,カリウムイオン,ルビジウムイオンはゾル状態とゲル状態ではその運動性は著しく異なり,ゲル状態において多糖類に強く相互作用していることが明らかにされた.この結果は,多糖類と金属イオンの相互作用に選択性がある事を示し,これまで経験的にカリウムイオン,ルビジウムイオンがゲル形成イオンと呼ばれていた結果を指示するものであり,ゲル形成における金属イオンの役割を明らかにするものであると評価されている.
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