研究概要 |
結晶構造制御のための相互作用として、強力で方向性を持ったI…N型の相互作用およびCH…O型の水素結合の、2つの分子間相互作用についてその特性と構造制御能力を検証するために、いくつかの新しいTTF誘導体の合成と伝導性カチオンラジカル塩の作成を行った。 1. I…N型の相互作用系 ピラジン環とヨウ素原子2つを併せ持ついくつかの系について多数の新規ドナー分子を合成し、それらのうちDIPS(Diiodo(pyrazino)diselenadithiafulvalene)分子を用いたカチオンラジカル塩の結晶中において、TTF系分子性導体としては初めての例となる6方晶系の超分子構造が構築可能であることを見出した。これらの結晶中では炭素-ヨウ素結合上に局在するLUMOの方向と、ピラジン環の窒素上の非共有電子対の方向が一致する形でドナー分子が相互に60度の角度をなすように配列制御されており、I…N型分子間相互作用の構造制御能力の高さを示したものといえる。 Chem.Commun.,2021(1998) 2. CH…O型の水素結合系 TTF骨格の外縁部に水素結合能を有するethylenedioxy基を導入したBO(bis(ethylene-dioxy)tetrathiafulvalene)分子は超伝導体を含む多くの安定な分子性金属を与えることが知られているが、結晶性の低さが詳細な物性測定を行うための障害となって来ていた。我々は、BO分子のTTF骨格の硫黄原子をセレン原子に置換することにより、分子間接触の増大と結晶性の向上を目指して、BEDO-STF(bis(ethylenedioxy)diselenadithiafulvalene)の合成を行った。合成にあたっては従来の含セレンTTF骨格の構築法を用いると、毒性の高いセレン化水素ガスあるいは二セレン化炭素といった試薬が必須となってくるため、今回新たに単体セレンと1,4-dioxeneを出発原料とした新しい合成ルートを開発した。カチオンラジカル塩の作成についても予備的検討を行い、GaCl4塩でk型の結晶構造をもち、電気伝導度も4Kまで安定な金属状態を保つことを確認した。 J.Mater.Chem.,9,1945(1998)
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