研究概要 |
2年間の本課題の目的は,強磁性合金(パーマロイ)の薄膜に微細加工を施して得られた強磁性体配列格子の動的磁気機能を明らかにすることにある.このような人工格子では,一つ一つの微小磁性体の磁化が巨大な磁気モーメントとして振る舞うことが期待され,新奇な量子磁気相互作用系とみなすことができる.前年度(平成9年度),微少な矩形磁性体を短冊状または碁盤目状に配列させた薄膜の強磁性共鳴(FMR)スペクトルを測定したところ,微小磁性体同士が磁気双極子相互作用により結合し,一定の位相関係を保った集団運動-擬似的なスピン波(双極子スピン波)-を起こすことを見出した. 本年度は,より一般的な格子に対象を拡張し,矩形以外のジオメトリー(三角形,円など)を持つ薄膜について調べる予定であったが,微細加工の精度を保つことが当初の予想以上に困難であることがわかった.そこで,ジオメトリーの変更以外の方向で双極子スピン波モデルの検証・一般化を行なうために,最隣接矩形間の相対配置と距離の異なる試料について調べることとした.相対配置・距離を系統的に変化させた試料のFMRスペクトルを解析した結果,双極子スピン波の分散関係は(1)最隣接以遠の矩形磁性体同士の磁気双極子相互作用の影響を強く受け,かつ(2)格子全体の群論的対称性だけではなく,微小磁性体の外形を強く反映していることが明らかになった.本研究の人工格子のようなセミマクロ相互作用系では,磁気モーメントが有限の大きさと形状(対称性)を有するというその本質的特徴が,磁気相互作用系全体の動的性質に大きな影響を与えることが明らかになった. なお,基板上に微小な矩形磁性体を一つだけ形成した試料についてもFMRスペクトルを測定したところ,双極子スピン波モデルでも既知のモデル(交換相互作用によるスピン波・表面波)でも説明できない新たな共鳴モードを発見した.詳細はまだ明らかではないが,孤立した(単一の)磁性体であってもそのサイズによっては従来にない特異な動的磁性を示し得ることが示唆された.
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