研究概要 |
平成10年度には,前年度に設計・製作した交流変調磁場(100Hz,100 0e程度)発生コイルと,その駆動回路(周波数可変,約10Aの矩形波交流スイッチング電源)を使った電流磁気効果(ホール効果と磁気抵抗効果)の測定系を組み立て,実際に測定をおこなって性能を評価した。交流磁場変調の採用により,測定の大幅な簡易化と時間短縮が期待される。これと同時に,試料に流す電流を交流変調(約1kHz)するための装置も設計・製作した。 交流変調による測定系の性能評価の結果は次の通りである。製作した交流磁場発生装置で振幅300 0eの交流磁場が発生でき,この磁場中で試料に直流電流を流してホール電圧をロックイン検出器で測定したところ,10μV程度以上の信号なら安定に測定できることがわかった。次に静磁場中で、試料に交流電流を流してホール電圧をロックイン検出器で測定したところ,1μV程度以上の信号なら安定に測定できるがわかった。実際の分子性伝導体の典型的な試料で期待されるホール電圧信号は1μV程度なので,ほぼ目的は達成できたといえる。交流磁場使用時にやや感度が悪化しているのは,磁場の波形がやや不安定なことによるもので,この点は,回路上の工夫と電流-磁場二重変調の採用によって,改善する余地がある。 以上の他に平成10年度には(BEDO-TTF)_x[Ln(NCS)_6]という新しい物質系を開発した。これは重希土類Lnを含む有機化合物で極低温まで金属伝導を示す最初の物質で,空気中で安定な単結晶が得られる。またこの物質は他の多くの分子性導体と異なって,広い温度範囲で電気抵抗が温度の2乗にほぼ比例するという特徴をもつ。これは,平成9年度に開発して構造決定および基本物性測定をおこなった(BEDT-TTF)_4[Ln(NCS)_6]・CH_2Cl_2(半導体)の詳細な磁性測定と合わせて,平成10年度の成果である。
|