研究概要 |
昨年度に引き続き,本研究では次の二つの課題について研究を行った. 課題(I):2,2-ジアリール-1-メチレンスピロペンタン(1)の光誘起電子移動による骨格転位 本課題については昨年度にその大半を終了し,「カチオンラジカル開裂-ビラジカル環化機構」が,2-アリール-1-メチレンシクロプロパン類の電子移動によるメチレンシクロプロパン転位の一般的な機構であることが明らかになった.本研究で最も重要なのは,逆電子移動反応がカチオンラジカルをビラジカルに変換する鍵となる過程でありことで,レーザー分光法やESR法で直接確認された.そこで,本年度はその成果のとりまとめを中心に行い,本課題で2件(次頁,「11.研究発表」の雑誌論文の第2件目及び図書),反応機構上関連する研究で2件の成果発表を行った. また,関連研究として基質1の構造異性体である3,3-ジアリール-1-メチレンスピロペンタンを新たに合成し,その光誘起電子移動反応を検討したところ,1,3-ジメチレンシクロブタン類への新規転位反応を見いだした.これらの結果は当初予想したトリメチレンメタン(TMM)型カチオンラジカルのみならず,広く有機カチオンラジカルの反応性を理解する上で重要な知見となった.今後,物理化学的手法も用いた新たな展開が期待される. 課題(II):3,5-ジフェニル-1-ピラゾリン-4-オン(4)の光誘起電子移動反応による脱窒素反応 本課題については,昨年度に基質(4)の合成研究を行い,後は最終段階の大量合成を残すのみであった.しかし,残念ながら最終的には4の大量合成には至らなかった.そこで,対象基質を環状ジエノンに転じ,その合成と直接光照射反応の検討を行った.その結果,期待するオキシアリルを経由する反応を確認した.現在は物理化学的手法が適用できるよう分子設計した他の誘導体の合成を行っており,今後の新たな展開が期待される.
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