研究概要 |
自然界で観測される個体群動態の揺らぎと安定性の間の関係を説明する新しいアイデアとして、自然界はそもそもカオス的な素子が結合することによって安定化されているのだというアイデア(Homeochaos)が提出されている(Kaneko and lkegami 1992,Sole and Valls 1992)。しかしながら、これらの数理モデルには始めからChaos発生素子としての差分方程式などが組み込まれており、直接自然界の現象を参照するにはhuristic過ぎる。この様な理論と自然界との橋渡し的な役割を果たす現象として、gene-for-geneで記述される生態系がある。gene-for-gene系では関与するgeneが少ない場合は局所的な動態は振動が激しく不安定であり、関与するgeneの数が増すにつれて系全体の動態は安定するという報告がある(Thompson and Burdon 1992)。 以上の点を踏まえて、数理モデルとしてChaos素子を含まず、gene-for-geneに準拠したIndividual-based modelを構築し、Homeochaos的な現象が果たして構築できるかどうかを、Hollandタイプの遺伝的アルゴリズムとbit-matching規則を用いた単純な生態モデルによって考察した。その結果、形成された生態系のほとんどは絶滅かover-shootするものであった。その中でも特に10,000世代まで存続するものに注目した場合、bit長が5以上の時に、穏やかでchaoticな動態を示し始めた。しかし、bit長が伸びるにしたがってchaoticな挙動をしめす系は少なくなって行った。すなわち、chaoticな挙動を示すためには、中程度のbit長が必要であることになる。また、chaoticな挙動を示す個体群は必ずしも個体群内の多様性が高い訳ではなかった。 今後はこのbit-matching規則を使ったモデルをbuilding-blockとして、空間構造なども採り入れたモデルに発展し、更にchaoticな挙動について考察を進めて行く予定である。尚、この研究はTaming chaotic dynamicsingene-for-gene systemsというタイトルで第3回国際創発、複雑系、階層性、組織化シンポジウム(Espo,Finland)にて発表を行った(平成10年度海外出張旅費申請理由)。
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