本研究においては、植物細胞膜のミクロドメインにおいて、カルシウム依存的に起こるタンパク質の構造変化をカルシウム依存性プロテインキナーゼの役割に着目して研究を行ってきた。アブシジン酸は、植物細胞において一時的なカルシウム濃度の上昇を引き起こすことが知られている。小麦培養細胞をアブシジン酸処理することにより誘導される細胞膜タンパク質WPM-1は、その遺伝子構造の解析から4つの膜貫通ドメインを持ち、強い塩基性を持つ親水性ドメインにArg-Xaa-Xaa-Serというカルシウム・カルモジュリン依存性キナーゼ基質のコンセンサス配列を持つ。すなわち、細胞膜タンパク質WPM-1は、アブシジン酸が引き起こす細胞膜周辺の一時的なカルシウム濃度の上昇によってリン酸化されることが示唆される。これを確かめるためにWPM-1の細胞質ドメインのみをグルタチオンSトランスフェラーゼの融合タンパク質として大腸菌で発現、精製した。この融合タンパク質は小麦培養細胞から調製したカルシウム依存性プロテインキナーゼにより強くリン酸化されることがわかった。このリン酸化はカルシウムキレーターであるEGTAにより著しく阻害される。また、WPM-1mRNAは、通常の細胞での発現はきわめて少ないが、細胞をアブシジン酸処理すると一時間以内に発現が顕著に誘導される。この誘導もまた、EGTAにより抑制された。WPM-1の生理学的役割を明らかにするために、WPM-1遺伝子をCaMV35Sプロモーター下流に連結してシロイヌナズナに導入した。これら植物はノーザン解析の結果、WPM-1遺伝子の構成的発現が確認され、今後、生理学的解析に用いられる予定である。 また、カルシウム依存性プロテインキナーゼにより修飾される細胞膜タンパク質をさらに同定するため、小麦の発現ライブラリーを用いてリン酸化スクリーニングをおこなった。現在までに、カルシウム依存性プロテインキナーゼによりリン酸化される遺伝子を50クローン以上を得てヌクレオチド配列を解析中である。これらクローンのなかには比較的疎水性の高い、膜貫通ドメインを持つと思われる新規のタンパク質をコードするクローンも含まれる。これらタンパク質の細胞膜との相互作用を密度勾配超遠心膜分画及び免疫組織学的手法により明らかにしていく予定である。
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