研究概要 |
PCRのためのプライマーを新たに作成し,14種(ムラチドリ,モサクダフクロ,フクロノリ,ウスカワフクロノリ,ホソクビワタモ,ワタモ,カゴメノリ,カヤモノリ,カヤモドキ,ウスカヤモ,ヒラカヤモ,ホソバノセイヨウハバノリ,セイヨウハバノリ,ハバノリ)についてリポソーム遺伝子の大サブユニットの変異領域(D1D2領域,550bp),ITS1領域とrbcLおよびrbcS遺伝子のDNA塩基配列をPCRダイレクトシーケンス法により決定した。前年度に得られたITS2領域とrbcLとrbcS遺伝子の間にあるスペーサー領域のDNA塩基配列も用いて,最節約法と近隣接合法により系統樹を作成し評価を行った。ITSとrbcスペーサーでは,多数のギャップによりアラインメントがむずかしく,得られた系統樹においてもブートストラップ値の低い枝が多く有効な情報は少なかった。rbcLとSではギャップはみられず,リボソームの大サブユニットも2カ所でギャップがみられるのみであった。アラインメントが確かなこれらの塩基配列をもとに,カヤモノリ目に近縁とされているシオミドロを外群とし,系統推定を行った。最節約法と近隣接合法による系統樹はほぼ同様のもので,ムラチドリ科の独立性は疑わしいこととフクロノリ属,カヤモノリ属,セイヨウハバノリ属は多系統であることを示した。カヤモノリ目は異形世代交代を行い,その分類は大形の世代である配偶体の形態をもとに行われてきた。今回の結果は,それらの分類形質が系統を反映していないことを示している。一方,小さな世代である胞子体の形態は分類形質として用いられてこなかったが,その形態形質は今回の分子系統樹とよく一致していた。カヤモノリ目の科と属の分類体系は,胞子体の形態も分類形質として用いて大きく改訂する必要があることが明らかになった。本研究の成果は国際藻類学会誌(Phycologia)に投稿中である。
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