研究概要 |
中生動物の二胚虫類は、その体制の単純さから原生動物と後生動物の中間に位置する生物と考えられているが、一方で扁形動物の吸虫類が退化した生物とする仮説もある。本研究ではミトコンドリアの遺伝暗号とゲノム変異圧のパターンから二胚虫類の系統位置の推定を試みている。前年度までにミサキニハイチュウのミトコンドリアCO1,CO2遺伝子は、それぞれ単独で1.7kb,1.6kbのミニサークルDNA上にコードされていることが分かっていたが、本年度の研究により、さらにCO3,ND1,ND2,LrRNA遺伝子が、それぞれ単独で0.7kb〜1.8kbのミニサークルDNA上にコードされていることが明らかになった。また、CO2ミニサークルの非コード領域に2種類のtRNA遺伝子(Arg,Gly)を見いだした。通常、後生動物のミトコンドリアDNAは14〜16kbの大きな環状DNA上に複数の遺伝子が並んでコードされている。二胚虫のように遺伝子が1つ1つ分断されている例は報告されておらず新発見となった。また、得られた塩基配列から二胚虫ミトコンドリアの全遺伝暗号を明らかにした。ミトコンドリアの変則暗号は系統樹のどこで生じたかが分かっているので、門レベルの系統位置を決める良い指標になる。原生動物から後生動物が出現する際に、AUA及びAGRコドンで暗号変化が起っている。また、扁形動物の枝で独自にUAA,AAAコドンが変化している。さらに扁形動物のプラナリアを調べ(発表論文)これを確かめた。本研究で調べた二胚虫の遺伝暗号は扁形動物のものではなかった。これらより二胚虫類は扁形動物の退化生物でなく、より原生動物に近い原始的な多細胞動物であると考えられる。CO2ミニサークルの2つのtRNA遺伝子は暗号変化を起こしたコドンのtRNAではなかったが、さらに解析を進めて次年度は系統位置決定の手がかりとなるtRNA遺伝子を探す。
|