研究概要 |
現生大型類人猿4種(Pongo pygmaeus,Gorilla gorilla,Pan troglodytes,Pan paniscus)の下顎大臼歯の形態について、種内変異の程度とそのパターンを分析した後、種独特の形態が存在するのかを検討した。また、現生種グループと、中新世化石ヒト上科属するインド・パキスタン出土Sivapithecusと、ケニア出土Proconsulとの比較分析を行った。形態情報としては、下顎第1大臼歯咬頭面の写真を画像解析して計測した咬頭面積およびそのプロポーションを使用した。現生種4種の種内変異の程度はさまざまで、Pongo pygmaeusでは,集団間変異が亜種間変異に相当する。使用したサンプルに観察された種内変異では、Gorilla gorillaが一番変異が著しく、Pan paniscusの変異が小さい。しかしながら、4種それぞれが、種独特の形態を示すことが明らかになった。即ち、サイズが大きく異なる雌雄で形態が類似し、また、亜種間の変異が大きい種も他種と比べて、一定の形態パターンを示す。これは、多変量解析(主成分分析、分散分析)の結果から明らかである。また、歯の部位によって、種内変異が大きい部分と種間変異が大きい部分が、異なることがわかった。この違いには、歯の発生・形成の時期と関係が影響している可能性がある。更に、現生種全体が、化石種グループとは異なる形態を示す。特に、その違いは近心部と遠心部の咬頭のプロポーションの差に顕著である。現生種は化石種にくらべ、いずれも、近心の咬頭の割合が大きい。この結果から、咬頭面の形態パターンが系統的関係をある程度反映することが示唆された。
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