研究概要 |
純水液滴表面が(空気中の)酸素のように電気陰性度が強い物質にふれている場合,液滴表面の水分子は酸素原子が外側を向いて電気双極子を形成していると考えられている.純水液滴中のイオンは,これによる電界の影響を受けて分布するが,その際,液滴全体での静電エネルギーが最小になるように分布すると考えられる.この考え方をもとにして,純水と高分子板との流動帯電現象を数値的に解明する研究を行った. 純水液滴中の正および負の電荷量は,純水のイオン積,液滴の寸法,液滴の帯電量(実験値)から算出した.この電荷を液滴内に配置し,以下の知見を得た. (1) 純水が未帯電状態,もしくは帯電量が少ない状態:負電荷(OH^-)は液滴表面近傍に集中し,正電荷(H^+)はそれよりも内側に存在する.この場合,表面近傍の負電荷量は正電荷量を上回っている.液滴が高分子板を流下する際に「液滴表面近傍の部分」すなわち負に帯電した部分が高分子表面に付着すると考えられ,結果として高分子板は負に帯電する. (2) 純水がある程度正に帯電した状態:液滴内に蓄積された正電荷が増大すると,空気などの液滴外部の電気陰性度にうち勝ち,液滴表面のダイボールの配置に影響を及ぼすと考えられる.具体的には,正電荷に引かれて「内側」を向く水分子が出現すると考えられる.これにより,ダイポールによる電界は弱くなると考えられる.これを考慮した結果,液滴表面近傍に存在する正電荷が増加し,負電荷の量を上回った.この表面近傍部が高分子板に残ることにより,高分子表面が正に帯電する. 上記のように,これまで実験的に知られていた純水と高分子の帯電現象(純水が正に帯電し,高分子板は上流部で負に,下流部で正に帯電する)を数値計算で導出した.高分子の種類,表面の状態,雰囲気による「外部電気陰性度」の影響を見積もることができれば,高分子板と純水の帯電現象を定量的に評価できると考えられる.
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