研究概要 |
柔軟性のある管の内側を音波が伝搬すると,音速が周波数に依存して変化する速度分散現象が生じる.このような速度分散領域において,従来の定義による群速度は,壁面振動の共振周波数付近で発散してしまい,本来の物理的意味を失ってしまう.そこで本研究は,電磁波の分野において新たに定義された群速度の理論に基づき,粘弾性管内の音波の群速度について理論的な検討を行い,実験を通して理論解析の妥当性の検証を行った. 平成9年度には,管内音波の群速度の理論的な検討を行い,シリコーンゴム管を用いた実験により,管内媒質が空気の場合の波束の伝搬速度を測定した.その結果,実験値は理論解析の値と比較的よく一致した. 平成10年度には,まず,シリコーンゴム管の弾性定数を簡易かつ高精度に求めるため,TSP(Time-Stretched Pulse:時間引き延ばしパルス)を管内に伝搬させ,音波の位相速度及び吸収係数の測定を行い,その結果を用いて管壁の動的弾性率及び動的粘性率を算出した.そして,求めた弾性定数をもとに,管内での音波伝搬の数値シミュレーションを行った.また,管内媒質が水の場合の音波伝搬実験を行い,管壁面の弾性振動が支配的に働く管壁モード,内部の流体が支配的に働く流体モードを分離して測定した.その結果,位相速度は管壁モードの方が速く,音波吸収は流体モードの方が大きいことがわかった.しかしながら,両モード共に,速度分散領域においては,音波吸収が著しく大きな値を示し,波束の伝搬速度を測定することが困難であった. 今後は,速度分散領域での波束の伝搬速度の測定精度を向上させるため,駆動源および受波センサについて検討する必要がある.
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