研究概要 |
本年度はPC/ABS樹脂を供試材とした.本材料はブタジエンゴムとAS樹脂で作られた非相溶2成分系のABS樹脂にポリカーボネイト(PC)を混合して作られた3成分系のポリマーアロイである.成分比の異なる6種類の試験片を作成し,透過型電子顕微鏡によるモルフォロジ観察を行った.その結果,PC/ABSが60%/40%の時,両材料とも連続相を形成し,それ以外の成分比の時は成分量の多い方が連続相で,少ない方が分散相となった.この試験片を用いて,延性破壊試験を行った.これは,丸棒状の試験片中央円周上に半径Rの溝を作り,軸方向に引張荷重を負荷し,破断する試験である.半径Rの値を0.8mmから∞(平滑試験片に相当する.)まで変化させることによって,溝部の3軸応力状態を変化させる.各の3軸応力状態における材料の破壊挙動の変化を調べることによって,材料の微視的構造が延性に及ぼす影響を評価することができる.PCは3軸応力度が増加するに従って,延性は低下した.これは,一般的な金属材料と同じ傾向である.一方,ABS樹脂は3軸応力度の増加と共に,延性も増加した.これは,内部に存在するゴム粒子の破裂は3軸応力に支配的であり,3軸応力度の増加と共に破裂に要する応力が低下したと考えられる.さらに,ゴム粒子の破裂は粒子近傍の応力を解放し,その結果,ゴム粒子の周囲の局所で塑性変形が生じる.これらの機構によって,一般的な金属材料とは全く逆の傾向を示したと考えられる.さらに,PC/ABSにおいては,3軸応力度の増加と共に延性は低下したが,重量分率が80:20の時には,延性低下の傾向は緩やかとなる.これは,先に述べたABSの延性増加機構が有効に作用したためと考えられる.
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