研究概要 |
本年度は人工関節材料のトライボ特性に影響を及ぼす力学因子として,接触面圧と共に材料表面に生じる滑り運動の方向性に着目し,これらの影響を評価することが可能な摩擦・摩耗試験機の製作,及びその試験機を用いた力学因子の影響の実験的評価を行った. 試作したピン・オン・ディスク型摩擦・摩耗試験機では,ディスク試験片を取り付けた液漕の両端をリニアガイドで保持し,液漕基部に設けたクランク機構によってこれを駆動することにより,ディスク試験片が負荷アームに固定されたUHMWPEピン試験片を中心とした公転運動を行う.これによりピン/ディスク間に生じる滑り運動の方向を,UHMWPEビン表面に対して連続的に変化させることが可能である. 制作した試験機により得られたUHMWPEピンの比摩耗量は,接触面圧5MPaにおいて2.0×10^<-7>mm^3/Nmとなり,従来の一方向滑り摩耗試験での結果(10^<-8>mm^3/Nm程度)と比較し,より生体内で観察される値(10^<-6>mm^3/Nm)に近いものとなった.またAFMによるUHMWPE摩耗表面の微視的構造観察では,一方向滑り試験後に見られる方向性を持った摩耗パターンに変わり,フィブリル上の形態が認められた.これらの結果は滑り運動の多方向性という力学因子が,生体内におけるUHMWPEの摩耗機構に対し大きな影響を持つことを示すものと思われる.また,蒸留水を潤滑液とした場合と比較し,牛血清を潤滑液とすることにより,UHMWPEの摩耗が増加することが定量的に確認された.実験後のUHMWPE表面のXPS分析の結果から,血清中の蛋白に起因すると思われる窒素及び硫黄がポリエチレン表面に取り込まれ,同時に酸素含有量が増加していることが確認されたことから,蛋白質等の生体環境因子とポリエチレン分子間に相互作用が存在し,結果として酸化が促進され,物性の低下と摩耗の増加を招いたものと考察される.
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