研究概要 |
本研究では,細線プローブに周波数1ωの交流を印加し非線形効果により生じる3倍高調波成分から流体の熱物性値を計測する3ωとプローブにステップ的に電圧を印加しプローブの温度応答から熱物性値を計測する非定常細線法を組み合わせ,さらに,得られた信号をウェーブレット分解し各周波数成分の持つ情報と非定常信号の持つ情報から,流体の各種物性値,物理量を一つのシステムで計測する手法の確立を目的とし,以下の研究を行った. 3ω法では,直径10μmの白金細線プローブ,抵抗の変化を検出するブリッジ回路,差動アンプ,ロックインアンプで構成された計測システムで,水,エタノール,空気等の静止流体に対して熱伝導率,温度伝導率の計測実験を行い,その性能を確認した.流体への3ω法の適用には定常加熱成分が誘起する自然対流の影響を正しく評価することが必要であり,計測値が理論値よりずれる点を整理し,また,数値シミュレーションを行うことで,自然対流強さと印可電圧周波数の関係として,その適用可能条件を明らかにした. また,細線プローブに単一周波数1ωの交流電圧をステップ状に印加し,印加直後から定常状態に至る全時間領域の1ω応答および非線形効果から現れる3倍高調波3ω応答をデジタルオシロスコープで記録し,ウェーブレット時間周波数解析プログラムを開発・使用することで,直流加熱に対する応答と2ωの発熱に対する応答を同時に取り出す試みを行った.直流加熱に対する応答および,2ω発熱に対する応答の両方から熱伝導率を求めることは可能であったが,ウェーブレット解析では,厳密には必要な周波数成分が分離できないため,3ω法だけを使用した場合の精度と比べ,計測精度の向上は達成されなかった.
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