研究概要 |
Si基板上にエビタキシャル成長可能な直接遷移型半導体鉄シリサイド(β-FeSi_2)は、その発光波長(λ〜1.5μm)が光ファイバの最小吸収波長にあるため、Si IC間の電気配線に代わる光接続用の発光素子材料として注目されている。β-FeSi_2からのPL発光は、これまでイオン打ち込み法により作製されたβ-FeSi_2から確認されているが、イオン打ち込みの際にSi基板に多数の欠陥が導入されるため、高温での長時間アニールが必要であるという問題を抱えている。本研究では、熱したSi基板に鉄を蒸着するReactive Deposition Epitaxy(RDE)法を用いるため、Si基板中に発生する欠陥はより少ないと考えられるが、これまでRDE法で形成したβ-FeSi_2からPL発光を確認したとの報告例はない。本年度は、Si中に埋め込むβ-FeSi_2球の大きさを変化させて、PL測定を行った。 まず、n-Si(001)基板上に基板温度470℃でFeを蒸着速度0.61A/sで蒸着するRDE法により膜厚20nm,10nm,3nmと膜厚の異なるβ-FeSi_2膜をエビタキシャル成長した。MBEチャンバ内で850℃、30分のアニールを行ったところ、β-FeSi_2膜は島上に凝集した。この上に、基板温度750℃でSiのMBE成長を行ったところ、それぞれ直径150-200nm(#l),100-120nm(#2),50-70nm(#3)のβ-FeSi_2球が埋め込まれていた。12KでArレーザ励起(514.5nm)でPL測定したところ、直径100-120nmのβ-FeSi_2球を含む試料#2から明瞭な1.5μmのPL発光を初めて確認した。その他の2つの試料からは、PL発光を確認出来なかった。試料#1では、β-FeSi_2球が大きいため、周囲のSi結晶中に転位による深い準位が形成されていることが、DLTS測定から分かった。また、試料#3では、X線回折より、金属相であるα-FeSi_2がβ-FeSi_2球に混入していることが分かった。これらが非発光再結合中心として働いたため、PL発光強度がβ-FeSi_2球の大きさにより違っていたと考えられる。 今後、成長条件を最適化し、β-FeSi_2球からの発光をより強くすることが課題である。
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