研究概要 |
本研究は,弾性領域の応力印加が軟質磁性材料の磁化特性に及ぼす効果のうち,その発生機構が十分には明らかとされていない応力効果について実験的に検討し,その非可逆的な変化の発生機構を明確化することを目的としている。本年度は消磁応力効果についての検討およびその取りまとめを行うと共に,磁界応力効果について検討を行った。 消磁応力効果について,けい素鋼板を用いて消磁後の応力印加によって生ずる磁化特性変化の測定と,それに対応する磁区構造変化を観察することで検討した。その結果,消磁応力効果は試料内の磁区構造と深く関連しており,特にスパイク磁区およびそのピニングサイトと密接に関連があることが明らかとなった。また,この応力効果は消磁周波数によっても変化し,それは180°磁壁間隔が消磁周波数に依存して変化することに起因していることを明らかとすることができた。すなわち,この応力効果は180°磁壁とその周辺のスパイク磁区とが密接に関連しながら移動することで磁化が進行していることと密接に関連していることを明らかとすることができた。 一方,磁界中応力効果については応力印加によって磁区構造を制御し易いアモルファス薄帯を用いて検討した。ここでは,試料内の磁区構造を整理するために,正の飽和磁気ひずみ定数を持つ試料に予め100MPaの張力を印加し,それを初期状態として実験検討した。その結果,可逆成分が少なくなり,非可逆成分が主な磁化変化として観察された。しかしながら,完全には180°磁壁のみとすることができず,可逆成分を完全に零とすることはできなかった。そのため,この応力効果についての定量的な考察には至らなかった。今後は,試料を磁界中で熱処理することによって更に大きな磁気異方性を誘導し,検討を進める必要があると考えられる。
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